CSSのネストが出来るようになったのをご存じでしょうか? CSSネスト記述は、CSSのコードをより直感的かつ効率的に記述するための手法です。 従来のCSSでは、スタイルを適用する際には各セレクターを個別に記述する必要がありました。 しかし、ネスト記述を使用すると、親子関係にある要素のスタイルを、親要素の中で直接記述することができます。 これにより、コードの可読性が向上し、大規模なスタイルシートの管理が容易になります。

ネスト記述は、SassやLESSなどのCSSプリプロセッサによって初めて実現され、その後CSSの標準仕様にも取り入れられるようになりました。 私自身はSassには懐疑的な意見をもっていた為、技術的に取り入れる事はなかったのですが、CSSの標準仕様に取り入れられてからは積極的にネスト記述を採用しています。

ネストによる利便性の向上

現代のWeb制作では、レスポンシブデザインや動的なUIコンポーネントが一般的であり、CSSのコードベースも以前に比べて大きく複雑になっています。 このような環境において、CSSネスト記述は、スタイルシートの構造をより明確にし、開発者がより迅速にコードを理解・修正できるようにすることで、開発の効率性と品質を大きく向上させる重要な役割を果たしています。

CSSネスト記述の導入によって、ウェブ開発におけるスタイルシートの可読性とメンテナンス性が大幅に向上しました。 従来のCSSでは、複数のセレクターを繰り返し記述する必要があり、大規模なプロジェクトではこれが非常に煩雑になることがありました。 しかし、ネスト記述を使用することで、関連するスタイルを親子関係で直感的に整理し、コードの重複を減らすことができます。

例えば、従来のCSS記述方法を見てみますと下記のようになります。

header {
    background-color: #333;
}

header ul{
    width: 100%;
    padding: 0;
    margin: 0 auto;
}

header ul li{
    padding: 0 0 0 1em;
}

header ul li a {
    color: white;
}

header ul li a:hover {
    color: #ddd;
}

このコードでは、headerというセレクターが複数回繰り返されています。 これに対して、CSSネスト記述を用いると、以下のようになります

header {
    background-color: #333;

    & ul{
        width: 100%;
        padding: 0;
        margin: 0 auto;

        & li{
            padding: 0 0 0 1em;

            & a {
                color: white;

                &:hover {
                    color: #ddd;
                }
            }
        }
    }
}

ネストされたCSS記述方法により、各要素がheaderの子要素であることが一目で明確になり、コードの読みやすさが向上します。 また、ネストによってセレクターの記述が簡素化されるため、コードの量が減り、メンテナンスが容易になります。

さらに、ネスト記述はスタイルの変更や拡張を行う際にも非常に便利です。 たとえば、新しいクラスやIDを追加したい場合、関連するスタイルを直感的に追跡しやすくなり、必要な箇所にのみ変更を加えることができます。 結果的にエラーのリスクを減らすこともできるでしょう。

このようにCSSネスト記述は、コードの構造を明確にし、開発プロセスを効率化することで、ウェブ開発の質と生産性を大きく向上させています。 私の話で言えばですが、ネストができるようになったおかげで、スタイル当てが爆速で可能になり、正直かなり楽になりました。

CSSネストによる恩恵の範囲

CSSネスト記述は、スタイルシートの可読性とメンテナンス性を劇的に向上させる可能性がありますが、その恩恵はプロジェクトや記述スタイルによって異なる場合があります。 特に、クラスセレクタを主に使用している開発者にとっては、ネストのメリットが限定的になることもあります。 これは、クラスセレクタを多用する場合、多くのスタイリングがすでに明確に分離されているため、ネストによる構造的なメリットが少ないからです。

一方で、要素セレクタを多用する場合、ネスト記述の利点は顕著になります。 例えば、私自身の経験では、要素セレクタを多用することで、関連するスタイルを一つのブロック内で簡潔に管理していますが、これは、特に親子関係が複雑なDOM構造を扱う場合に顕著で、コードの見通しが良くなり、スタイルの変更や拡張が容易になります。

例を挙げると、従来のCSSでは複数の要素セレクタを個別に記述する必要がありましたが、ネスト記述を用いることで、これらを一つの親セレクタの中に組み込むことができます。 この方法は、コードの量を減らすだけでなく、要素間の関連性を視覚的に理解しやすくするという大きなメリットをもたらします。

iOSアップデートによる罠

CSSのネスト記述は、現代のウェブ開発において広く受け入れられ、ほとんどの主要なブラウザバージョンで問題なく表示されています。 実際、ブラウザの対応リストを見ると、81.08%という広範なサポートが確認でき、安心してネスト機能を利用できるように考えてしまいます。 2023年12月現在のデータではありますが、問題無く使用できると言っても過言ではないでしょう。 参考元:caniuse.com

しかし、この一見問題なさそうな状況の中で、iOSユーザーに特有の一つの大きな問題が存在します。 それは、iOSのメインブラウザであるSafariのバージョンが、iOS自体のバージョンに直結しているという事実です。 この結果、iOSをアップデートしないユーザーは、同時にSafariの古いバージョンを使用し続けることになります。

信じたくない事実ですが、想像以上にiOSをアップデートしないユーザーは存在しています。 しかも、その割合はブラウザ全体で見た場合、2023年12月現在で、およそ6%ものユーザーです。 ウェブ制作者にとって頭を抱える悲しい事項です。 これらのユーザーは、残念ながら最新のCSS機能がサポートされていない古いバージョンのSafariを使用しており、このため、CSSネストを含む最新のスタイリングが正しく表示が崩れてしまう事を意味しています。

どちらを取るか

思い返せば、インターネットの進化に伴い、HTML、CSS、JavaScriptの取り扱いに関しても多くの変化がありました。 特に、インターネットエクスプローラーの時代を思い返すと、ウェブ制作者はさまざまなブラウザの互換性に苦労し、取捨選択を迫られることが多々ありました。 この点において、CSSのネスト記述もまた、そのような選択肢の一つです。

インターネットエクスプローラーの時代に比べれば、現代のブラウザの多様性や技術の進歩により、対応の難しさは軽減されています。 しかし、全てのユーザーに最適な体験を提供するためには、依然として制約があるのも事実です。

とは言え、技術の利点を最大限に活用しつつ、ユーザーの多様性を尊重するバランスが大切だと考え、私はCSSのネストは積極的に採用したい技術だとも考えています。 この辺りはクライアントと相談しながらしっかり計画していきたい事案でもありますね。

まとめと今後の展望

本記事では、CSSネスト記述の利便性と、iOSにおける互換性問題点について掘り下げてきました。 CSSネスト記述は、コードの可読性とメンテナンスの容易さを大幅に向上させ、複雑なウェブサイトやの制作をより効率的に行うことを可能にします。 しかし、古いブラウザや、iOSのアップデートを行わないユーザーが使用するSafariにおける問題も発生します。

将来的には、ウェブ標準の発展と共に、ネスト記述のような先進的なCSS機能がさらに多くのブラウザで標準化され、ウェブ開発の新しい潮流を形成するでしょう。 しかし一方で、古い技術と新しい技術の間のギャップを埋めるための努力も、引き続きウェブ制作者に求められます。 バランスを考えながらWEB制作の道を模索していきたいですね。